2013年8月20日火曜日

銀シャリ屋げこ亭のめし炊き仙人引退報道(誤報)のメカニズム(仮説)

銀シャリ屋げこ亭ご主人引退誤報の件、Allabout News Digの「最低賃金14円UP!」テーマに強引にまぎれこませましたが、やっぱり、一部から「わかりにくい」とお叱りをいただきました。というわけで、ゲコ亭の部分のみ、再構成してUPしておきます。
※めし炊き仙人村嶋さんご本人とお話した以外の周辺部分はウラがとれているわけではないので、あくまでBlogとしてお楽しみください。

大阪に「銀シャリ屋ゲコ亭」という定食屋さんがあります。「めし炊き仙人」と言われる82歳のご店主が50年間炊事場に立つ、全国に名を轟かせるお店です。でも、例年6月から8月は「水がよくないから」とまるっとお休みされます。

以前、取材で関わったときに聞いた話では、現在の年間売上は5000万円。うち6割以上を材料費にかけ、人件費と経費で2割。残り1~2割が利益でそこから税金を支払うという、もう飲食業界の常識からは考えられないビジネスモデルです。ご自身も「アホくさい商売でしょう」と笑い飛ばしていらっしゃいました。
数日前、全国紙の地方版に「大阪・堺の食堂 めし炊き仙人引退」という記事が流れ、ヤフーニュースが拾ったことで、ネット界隈でも食いしん坊を中心に結構な騒ぎになりました。当たり前です。地元の記者さんや周辺の飲食チェーンの方々がどの程度のご認識かわかりませんが、恐らく地元の方々が想像する以上に全国にファンの多い、伝説のお店です。

第一報は明らかに誤報です。20日現在、読売のサイトに複数のバージョンが上がっておりますが、いまだにタイトルが「大阪・堺の食堂「飯炊き仙人」今月末で引退」という言い切りバージョンも上がっております。

8月14日記事の魚拓(Yahoo! News配信版)
同記事の修正版

第一報がUPされ、ヤフーなどが巡回したあと、本体は修正がされたようです。主な修正点は最後に1ブロック、付け加えられていること。文末に「9月以降に経営を引き継ぐが、(中略)村嶋さんもしばらくはかまどの前に立つつもりだ」というブロックが足されています。「9月以降」というのは、そりゃそうでしょう。いつかは誰かが経営を引き継ぎます。「しばらくはかまどの前に立つ」もご本人がやる気満々です。引退なんてどこ吹く風。

ところが修正版でも、1ブロック目の文末は「今月末で引退」のまま。今年も例年通り、8月はお休みのゲコ亭において星一徹もビックリの魔送球です。タイトルが変更されていないのはレギュレーション的に何かあるのでしょうか。

それにしても報道から数日間、みなさんがなぜ誤報に気づかなかったかというと、「今月末で引退」を真に受けて「例年だと8月は休むはずだけど、今年はラストイヤーだから特別に営業してるってことかな」と勝手に解釈したり、報道を受けて飛び込みで食べに行けどもお休みで「きっと通常とは営業日が違うんだ」と思い込んでいたことが理由だと思われます。

僕は東京在住なので行って閉まっていたら痛すぎます。「とにかく営業日聞かないと」「いざとなったら深夜バス」なんてことを考えて、先週からヒマを見つけては電話をかけていたところ、昨日ようやく電話がつながりました。

んで、ご本人の口から「やー。全国からご心配いただきまして」「今年は米の生育が遅いので、9月頭よりちょっと遅め……中旬から営業する予定ですわ」「ササニシキはたぶん10月に入ってからなのでその頃いらっしゃるといいですな」「やー、まだまだやりまっせ」「がっはっは」という、あの報道はなんだったのか的な応対にこっちが拍子抜けというか、ともあれよかったよかったというわけで。

それにしてもなぜあんな報道が出たか。ちょっぴりあさっての方向に話は飛びますが、ヒントは後継の企業さんのプレスリリースにありました。
2013.08.13 日本一の飯炊き仙人「銀シャリ屋ゲコ亭」を継承します(PDF)

読売のWebが「引退」を報じたのが翌14日の朝8時台。逆算すると本記事は13日の夕刊か14日の朝刊に掲載された可能性が高く、ブーストかかりまくったプレスリリースを目にしたか、耳にした内輪話を仙人に当てずに書いちゃったとか、そんな感じかと思われます。

もっとも、この数年ゲコ亭の店内には「銀シャリ屋げこ亭の50年の味伝授します 御相談下さい あるじ」という貼り紙が掲出されていました。後継探しに苦労されていたというお話も伺っていたので、ゆくゆくは先のプレスリリースの企業さんがお引き受けになる道筋がついたとかそういう話なのでしょうが、プレスリリースはもう少し上手に打たれることをおすすめします。

ご本人がいますぐ引退するおつもりもないのに、「2代目主人を☓☓☓☓(社長の名前)が継承します」とリリースのタイトルに打たれて、仙人のファンから反感を買ったりしないでしょうか。炊事場を開襟シャツ&スーツで闊歩するお写真がありましたが、この格好で米は研げるのか、スーツは汚れないのかなどあれこれ心配です。

文章にも「この数か月間は準備期間として、事前に当社の社員が店舗に入り込み」って盗っ人じゃないんですから、「お邪魔して」などの文言にしましょう。店から何か、もしくは店自体を盗んだりするんじゃないかと誤解されるリスクが危険でヤバイです。さらには例年ゲコ亭は6~8月がお休みなのに、リリースの最後に「6月から8月の間は改装を含めた準備期間として休店し、2代目「銀シャリ屋ゲコ亭」は 9月よりオープン致します。 」と仙人ご本人からは聞こえてこない経営移転を前提とした〆になっているなど、いろいろ冗談のセンスが斜め上すぎて、凡人の僕にはどうリアクションしたらいいのかよくわかりません。

どんな意図でリリースをあの文面にされたのかわかりませんが、店を継ぐつもりがおありなら、もう少しゲコ亭のファンの方々に愛されるようなリリースをお打ちになられたほうがいいと思われます。あまりにも村嶋さんの口ぶりと食い違っていて、何か行き違いがないか心配しているうちに、もりもりごはんを食べ進んでしまいそうです。

リリースを鵜呑みにしたかのような某全国紙の誤報のカッ飛ばし方はやっちゃった感満点ですし、その後の修正のとってつけた感も、あまり好きではございませんが、僕もWebの原稿は雑にUP→修正ということもございます。これからもお互いそれぞれに、みなさん元気にがんばってまいりましょうとエールをお送りさせていただき、原稿の修正に戻ります。